2014年11月5日水曜日

38. 湯殿山

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【現代読み】
岩に腰掛けて しばし休(やす)らふほど、
三尺ばかりなる桜の蕾(つぼみ) (なか)ば開けるあり。
降り積む雪の下に埋(うづ)もれて、
春を忘れぬ遅桜(おそざくら)の 花の心わりなし。
炎天(えんてん)の梅花(ばいか) (ここ)にかほるがごとし。
行尊僧正(ぎょうそん・そうじょう)の歌の哀れも 爰(ここ)に思ひ出(いで)て、
(なお)まさりて覚(おぼ)ゆ。 総じて此の山中の微細(びさい)、 
行者(ぎょうじゃ)の法式(ほうしき)として 他言(たごん)する事を禁ず。
(よ)りて筆をとどめて記(しる)さず。

坊に帰れば 阿闍梨(あじゃり)の求めに依(よ)りて、
三山順礼(さんざん・じゅんれい)の句々 短冊(たんざく)に書く。

 涼しさや ほの三日月の 羽黒山(はぐろさん)
 雲の峯 (みね) 幾つ崩(くづ)れて 月の山
 語られぬ 湯殿にぬらす 袂(たもと)かな
 湯殿山(ゆどのさん) 銭踏む道の 泪(なみだ)かな  曾良

【語句】
湯殿山(ゆどのさん): 出羽三山の一つで、標高1500メートルほど。
桜の蕾: 高山植物のミネザクラ(あるいは、タカミネザクラ)とされる。→ 画像
行尊(ぎょうそん): 平安後期の僧で歌人。その歌は小倉百人一首や金葉和歌集にも収録されている。
大峰にて思ひもかけず桜の花の咲きたりけるを見てよめる
  「もろともに あはれと思へ山桜  花よりほかに 知る人もなし」

山中の微細、行者の法式として他言する事を禁ず: 「装束小屋、ここにて衣服を改め、金銀銭そのほか所持の品をここに置きて、これより先の様子、人に語ることを堅く禁ず」(「諸州採薬記」)
「曾良旅日記」(後述)にも同じような記述がある。
銭踏む道の: これも「曾良旅日記」に、「是より奥へ持ちたる金銀銭、持ちて帰ら不(ず)。惣(総)じて取落せる物、取上る事成不(ならず)」―とあるから、道に賽銭が散らばっていても、それを拾う人はいない、ということ。

  「曾良旅日記」
七日: 湯殿へ趣く。鍛冶やしき、小屋有り。牛首(本道寺へも、岩根沢へも行也)小屋有り。不浄垢離(清川が流れ、装束場があった)、ここにて水浴びる。少し行きて、草鞋脱ぎ替え、手繦かけなどして御前に下る。
(御前よりすぐに注連掛け〈注連掛口の注連寺〉・大日坊へかかりて、鶴ヶ岡へ出る道有り)
是より奥へ持ちたる金銀銭、持ちて帰ら不(ず)。惣(総)じて取落せる物、取上る事成不(ならず)。
浄衣・法(宝)冠・注連(しめ)計(ばかり)にて行く。昼時分、月山に帰る。昼食して下向す。
強清水(こわしみず)迄光明坊(羽黒山・南谷の役僧)より弁当持たせ、逆迎え(さかむかえ:参拝を終えた道者を料理を携えて出迎えること)させる。暮るに及び、南谷に帰る。甚(はなは)だ労(つか)る。

草鞋脱ぎ替え場より志津(しづ)と云う所へ出て、もがみ(最上)へ行く也。
堂者坊(行者の宿坊)に一宿。三人、壱歩。月山、一夜宿。小屋賃廿文。方々役銭二百文之内。散銭二百文之内。彼是(かれこれ)、壱分銭余不(あまらず)。

  「曾良・俳諧書留」
   翁
雲の峰 幾つ崩れて 月の山
涼風や ほの三ケ月の 羽黒山
語れぬ 湯殿にぬらす 袂哉
月山や 鍛冶が跡とふ 雪清水  曾良
銭踏て 世を忘れけり ゆどの道
三ケ月や 雪にしらげし 雲峰

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